就活でブラック企業を避けることは可能なのか?

新卒採用
杉浦二郎

――学生は知っている所や著名な所に就職活動をかけるという話がありましたが、一方で学生はきちんと企業の情報を知らないから名前などに左右されるのだと思います。どうすれば学生は企業の情報を的確に得ることができるのでしょうか。

杉浦今は昔と違って、いくらでもできるでしょう。ナビ会社の情報も一般公開されていますからいくらでも見れるし、企業のホームページだってある。採用のサイトもいくらでもありますから、やるかやらないかの話になるでしょう。

――学生自身が行動することが大事になりますね。

杉浦行動量は結果とある程度相関があるのではないかと思います。

――企業側はどういったアプローチをすれば良いのでしょうか。

杉浦自分達がどのような人材を求めているのかを出すこと、それを学生達が判断できる状態にしてあげることが大事だと思います。どこの企業も「来てください」と“いい顔”をしますが、みんなが揃って綺麗なWebページなどで人を集めるというのは、何も伝えてないのと一緒です。そんなことをするより、自分達はどんな人間の集まりで、こういう人達とは合わないがこういう人達となら合う、ということをちゃんと伝えていくことの方がはるかに大事です。学生にすれば、セルフスクリーニングが働いて、合う合わないがわかる方が良い。そういうことを企業側が提供できるかどうかです。

――新卒採用の場合は将来性がすべてだと言い切って良いのでしょうか。

杉浦ほぼ、そうじゃないかと思います。中には学生時代から経験値を積んで即戦力に近い形で入ってくる人もいると思うんですけど、多くの学生はアルバイトぐらいしか経験がありませんから、ポテンシャルで判断されますよね。

――ネット企業などでは「新卒でも即戦力として認めるよ」という所もありますよね。

杉浦そういう採用をすれば問題ないです。個人的には、新卒・中途の線引きはいらないと思っていますから。

――新卒で入って1~2年で辞めるということも多い気がします。

杉浦一番やってはいけないことですね。企業側がしっかりアセスメントしない、あるいは採用のことをよく考えずに、とにかく「良い人がほしい」と進めていった結果としてそういうことが起きるのだと思います。1~2年で辞めるなどというのは採用側の責任が大きい。もしそういうことが起こったら、採用のどこが間違っていたのか検証すべきです。

――そういう会社を選んでしまった本人の責任ということはありませんか。

杉浦正しく会社の情報を伝えて、それを認識して入ったのであれば問題はありません。「ウチは1年目の離職率は高いけど、残った人はものすごく活躍しているし、たとえ3カ月で辞めてもけっこうスキルが得られるよ」といったことを学生が認識して入るのであれば良いでしょう。双方が情報を提示して、納得して採用されたのであれば問題ない。

――新卒採用においても「こうあるべき」というものはない、と。

杉浦ないですね。

――1~2年ですぐに辞めさせるような企業は「ブラック企業」と呼ばれる可能性がありますね。

杉浦騙して入社させたのだとしたらブラック企業でしょう。でも、先ほどお話ししたようにちゃんと説明をして、「頑張ればこれだけスキルが身につく」「残っている人間はこれだけ稼ぐ」というのであれば、リスク承知で、お互い納得して採用することもある。世間的にはブラックかもしれないけど、心理的な契約が整っていれば問題はないですよね。「ウチは普通の会社だよ」「良い会社だよ」と言いながら、入ってみたら労働条件が厳しくて毎日終電まで残業、話が違う!という会社はブラックでしょう。絶対的な基準があるわけではないですね。騙して採用している場合はブラックなのかな、という。

――中途の場合は働いた経験があるので理解力も高いでしょうが、新卒の場合は「思っていたのと違った」という場合もあると思います。正しく伝えても正しく認識されていないケースもある。それも踏まえて「納得したでしょ」と言い切って良いものなのでしょうか。

杉浦そこまで齟齬が起きるケースはあまり思いつきませんが……やってみたけどダメだった、というのは納得できる話でもありますよね。「ウチは毎日終電だよ」「大丈夫です」ということで入ってみたけどやっぱりきつかった、という場合は、お互いに納得しているはずです。すみません、やっぱりきついです、と。それで辞めるのであれば何も問題ないのではないでしょうか。確かにきついよね、残念だ、と。

――でも、杉浦さんはそういう採用はしたくない。

杉浦そういう会社が成長するイメージを持っていませんから。大事なのは、何が目的なのか。採用でも何でも、目的は会社を成長させることでしょう。そのためにどんな状態が一番良いのか、どんな人が合うのかを逆算していくのが採用。そう考えると、毎日みんなが終電まで残業するのが常態化している会社が成長するとはあまり思えない。スタートアップ企業は別ですけど。社員がもつとは思えない。だからそういう採用がしたくないというより、そういう会社は先がないでしょう、という感じですね。

――学生がそういう会社を選んでしまったらどうしようもないでしょうか?

杉浦個人の目線で考えれば、そうとばかりは言えないと思います。例えば1年間がむしゃらに働いて独立したいのであれば、それでもいいわけです。その会社がどうなろうと関係ない。お金より経験がほしいのであればそういう選択肢もある。自分がどういうステージにいるのかを考えることが大事でしょう。

――新卒の人にはハードルが高い気もします。

杉浦それは確かにありますが、現実でもある。すべての会社が雇用を維持はできないのですから、学生自身もそろそろそういうことを考えていく必要がありますよ。

杉浦二郎
取材先人物紹介:杉浦二郎
2015年9月まで三幸製菓株式会社の人事責任者、現株式会社モザイクワーク代表取締役。
三幸製菓では、「カフェテリア採用」「日本一短いES」などを生み出し、TV、新聞、ビジネス誌など取材経験多数。講演会の講師、採用コンサルタントの実績多数。地元新潟で産学連携キャリアイベントを立ち上げるなど、「地方」をテーマにしたキャリア・就職支援にも取り組む。
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